Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
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   テーマ:ジョイ猫物語 第三章(1)

三章「愛と信じる心」
 
冬のある日、太陽が柔らかな日差しを控え始めていた。どんよりした雪雲が毛布のように街を覆う灰色の冬の午後である。[
「セピアの館」では、暖炉の火がパチパチとはじける音を立てながら、サムとジョイを芯まで暖めていた。
うとうと!と、サムは深緑色の毛糸のカーディガンに深々と埋もれ、ロッキングチェアーで揺れながら居眠りをしている。ジョイも少しづつ数が増してくる雪の舞を窓越しに眺めていたのだが、やがて静けさに時折響く暖炉の音色が遠のいて、心地良い眠りに入った。
気持ちの良い昼寝をどれほどしていただろうか。
「ワン、ワン!」
と、元気に雪と戯れる隣のピースの嬉々とした吠え声で目が覚めた。
「ジョイや。お前はピースのようにはいかないねー、冬は」
同じようにうたた寝から目覚めたサムが優しく微笑む。雪が降り出してからは、猫たちの活動も冬休みになっている。集まりも春まではない。隣の親友犬ピースとの遊びも、寒さで減ってしまっていた。春が待ち遠しいジョイだが、穏やかでゆったりした冬の毎日も悪くはなく、むしろ喜びだった。
サムが「ヨイショ!」と椅子から立ち上がり、窓辺にあるピンク色のシクラメンの鉢の前に立った。
「おや、おや、これは困ったぞ。そうか、最近は午後になってから、水を遣っていたから鉢底に水が残っていて凍ってしまったのだな。やれやれ、がんばっておくれよ」
と、花に対して申し訳なさそうな顔をして話しかける。
ジョイのグリーンの眼が一瞬曇る。彼の賢い頭の中を一つの心配がよぎる。そう言えば、早起きのご主人がこの二・三日、珍しく寝坊をしているのだ。生まれて初めて見る飼い主の朝寝坊だ。心なしか最近、白髪と皺が増えてきているサムをじっとみつめながら観察するジョイ。サムは、自分を凝視するジョイの眼を感じて驚き首をかしげる。そして、微笑んで応じる。
その温かな笑顔を眺めたジョイは、安心して座りなおした。
『年齢も重ねてきているし、この寒さだから早く起きられなくても不思議じゃないや』
と、ジョイは結論した。ところが、サムのほうは、動物の鋭い感覚をある程度信じる人間だった。サムの観点からすれば、危険が身に迫っている時に発揮する動物たちの予知力も信頼できるものだった。
『ジョイは、自分の危険を予知したのかもしれない』
と、サムは思った。
その時、彼は自らの脳の片隅を、冬の木枯らしの泣き声のような音色が通り過ぎるのを聞いた。



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