Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
[リスト] [新記事] [ワード検索]

   テーマ:ジョイ猫物語 第二章(14)

 帰り道、ジョイは自分達リーダー猫の失敗から、危うく命を失うところだったメイとラファエルの姿を思い出していた。そして、権力を行使するための自らの経験の足りなさを認めた。
年長のマリアの提案にもっと耳を貸すべきだった、と後悔の念が彼を襲う。他の者の家庭の事情も知らずに「愛」という名の下で権威をかざし、性急に行動することの悲惨な結末を知ったのだった。
実際、その通りであった。複雑な一匹ずつの事情を、いったい誰が見通すことが出来るであろうか。同じ集団に属するからといって互いに見える表面から推測しあっても、不可能なのだ。
ジョイ自身、メイの事情は勿論、友人ラファエルの抱くメイへの感情も知らなかった。権威と言う力に基づく自己過信は、過ちへと辿(たど)る早道なのであった。
多くの大切な教訓を、メイ宅の炎の事件から学びとったジョイの成長は、初冬の夕暮れの道を戻るしなやかな体に見えるだけではなくなった。どこか穏やかで控えめで謙虚(けんきょ)になっている。ジョイは自分なりに、愛と謙虚と責任のバランスの難しさを学んだ。
 だが、まだまだ幼く若いジョイである。健康な思考は、やがて青春の真っ只中へ向かう。明日は、友人の猫ラファエルやバルナバと遊ぶ日だ。
『明日は木登りと、それから尻尾追いと爪とぎだ』
その場面を想像しながら梢だけになったハナミズキ通りを、喜びの猫ジョイは急いだ。
今か!今か!と待つ心優しいサムのいる温かなセピアの館へと。

第二章 終わり 第三章へ続く



- Web Forum -