Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
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   テーマ:ジョイ猫物語 第三章(19)

彼女の家族が住む北の田舎町へと、悲しみのドライブがエンジン音と共に始まる。
ジョイは愛する者の死について混乱状態のまま身動き一つせず、ただ優しかったサムのことだけを考えていた。
小さな時からご主人の膝に乗って「愛と勇気のお話」を聞きながら平安と喜びに浸りスヤスヤと眠った午後。いつも自分を見守り、目を細めて「ジョイやー」と語りかけて撫ぜてくれるあの手。金色に光る「JOY」の名入りの首輪を初めてかけてくれた時のサムの感動した表情。ジョイが殺されそうになった時、無事を確認したサムの歓喜の顔。火事騒動の明け方、ジョイを必死に抱きしめて逃げるサムの胸の中の温かな感触。
何があっても、いつも自分の味方だった。何をしようとも、いつも信じてくれた。いつも愛し慈しみ深く守って育ててくれた。自分の成長を喜び、誇ってもくれた。あのご主人サムが、もう僕の元へ帰って来ない。
ジョイのグリーンの眼から涙が溢れ、口元を止めどもなく静かに落ちていく。
 どれ程の涙を流したであろうか・・・やがて、アルトベイク市の名残りもない遠い町並みが窓に映り、冬の太陽が急ぎ足で闇に潜ろうとする頃が近づいていた。ジョイはあの最後に見た主人サムの姿を何度も思い返し「死ぬ」とは、何だろう?と言う疑問に到達していた。
『機会があったら親友バルナバやラファと論じてみよう。でも、きっと僕達では答えが出ないかもしれない。それでは、やはり・・いつ会えるか分らないけど、今度マリアに聞いてみよう』
と、心に決めた。彼女なら経験が多いし、何でも知っていそうな気がした。その後で、自分が猫としてどう生きたら良いのかを考えようと結論した。
『今は、とにかくローズの予定に従う・・・それしか出来ないのだから』と考えられるほど冷静な思考力が戻ってきた。
いつの間にか、見たことのない風景のど真ん中で、車が停まる。
車を降りると、どこまでも広がる白い雪野原。冬の静かな夕陽が遠くの山脈に沈もうとしている。白い雪原が夕陽の茜色をそのままに映し、ジョイのグリーンの眼をオレンジ色に染める。
振り返ると雪と同じ色の白亜の館がジョイの眼に大きく飛び込んできた。

第三章 終わり 第四章へ続く



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