Mrs.ポピーの童話〈バックナンバー〉
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   テーマ:ジョイ猫物語 第三章(18)

 ジョイが意識を取り戻すと、後ろに束ねた鳶色(とびいろ)の髪をゆったり垂らして玄関の外にいるローズの腕の中にいた。
ほっとしたローズは一度だけ、ジョイを強く抱きしめてから静かに雪の地面に下ろした。ジョイは、妹ローズに引き取られて旅立つことを受け入れる。屋敷を背にして歩く一人と一匹の足跡だけが、新雪の上に彫りこまれた。それは、偉大な芸術家の彫刻のように損なわれることも、二度と踏み重ねられることもない足跡となるだろう。
残された「セピアの館」は、冷たさを忘れたかのような白い雪に優しく溶け込み、煌きを放っている。
門まで来ると、ローズは足を止めた。兄の面影を最後に心に焼き付けるかのように、屋敷を振り返った。
ジョイの方は、屋敷から・・・自分を呼ぶサムの声を聞いたような気がして、思わず踝を返した。
その時、ふたりの目に飛び込んできたのは、銀白色に装った「セピアの館」の屋根を覆う半円形の虹だった。その七つの色は幻想的であり、天上のものか?とさえ思わせるほどの美しさだ。
我を忘れて溜息と共に虹をみつめるローズの胸に去来したのは、自分が垣間見てきた愛する兄サムの生涯だった。彼女は、満足そうに・・・虹を眺めてそっと微笑んだ。
そして、ジョイの眼が見たのは・・・虹のてっぺんに、ゆったりと腰をおろして座っているサムの姿だった。
その穏やかなサムの笑顔は、これまで彼が見てきたどの微笑みよりも明るく、しかも慈愛に満ちていた。そのサムが、ジョイに軽く、見送るように右手を振ったように見えた。
ジョイは、巨大な力に包まれたように感じる。
「ンニャーゴーニャーアーゴー!」
ジョイは、残された力の限りに雄たけびを上げる。その声は、雄々しいたてがみのあるライオンのように強く、王者のような威厳に満ちていた。
ジョイとローズは、愛と平和の大きな虹をマントのように背中に感じながら古い「セピアの館」の門を抜けてローズの車に乗り込んだ。



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