テーマ:ジョイ猫物語 第三章(4)
その声を訊いたサムが驚いて、読んでいた本を手にしたまま駆け寄って来る。 「おい、ジョイや〜!どうしたのかね。大丈夫かい?」 不安げにジョイの首元を撫でる。ジョイは気を取り直した。 常に「愛と勇気」を持って生きたいと願うこのロシアンブルーには、正義感が溢れていた。義憤と愛する親友ラファエルへの熱い友情が心の中で衝突し、哀しみとなって呻きを発したのだった。 それでもジョイは激しい感情をおさえて、いつものスマイルをサムへ湛えて見せる。サムは安心して椅子に戻る。 ジョイはバルナバに状況説明の続きをうながした。 バルナバは、ふーっ!と深呼吸をした。彼とて辛く、困惑していた。だからこそ、凍死するかもしれない雪道を駆けてきたのだ。 バルナバは、続きを話し出す。 『「僕は、ラファを信じている。だから帰宅するとすぐに彼の家に行ったよ。過去のことは何も聞く必要がないから、それについての話題は外したさ。問題は、メイの家の火災の放火だからね。単刀直入に聞いたら、彼は一言だけ語ってくれたんだ。それが、それが、ジョイ!君に、メイ宅の火事の現場で目撃していたことを聞いてくれ、と言う事だけだったんだ。どういうことなのか、ますます分らなくなったよ。だから、教えて欲しいんだ。あの日、ラファの何を目撃したんだい?」』 ジョイは答えられなかった。なぜなら、あの時自分が火事の現場に着いたときには、既にラファはそこにいて炎上する様子を眺めていたのだったから・・。しかし親友ラファを信じていた。 『彼は決して放火をするはずがないではないか。火事の前日には、メイの救出行動をすすめたラファではあったが・・・あの穏やかさで猫社会トップの彼が、そんな犯罪を侵すはずがないではないか?』 それでもジョイは、バルナバに返事をためらった。 重大な証言になるからである。
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